【リコリコ】千束の価値観 4

アニメ

 A1-Pictures制作のオリジナルアニメーション【リコリス・リコイル】の主人公【錦木千束】の生き方、価値観、考え方で印象に残ったものを以前【千束の価値観 1】【千束の価値観 2】【千束の価値観3】で書かせていただきました。
 今回もまたその続きです。今回は九話や十話、命や時間など考えさせられる価値観が多かったので、日々を生きることに精一杯の方、何かのきっかけになれば幸いです。

 

九話より
「いいのよ。もともと、そんな長くなかったんだから」
「あいつを殺したところで、変わんないよ。さ、帰ろう」

 吉松の側近にいた女、姫蒲は看護師として病院に潜入し、千束に眠剤を注射、人工心臓を急激な過充電で充電ができなくなる破壊工作をしました。充電残量は残り二ヶ月と宣言され、大人達は黙って察していましたが、人工心臓に代わりが無いと知り、たきなだけが感情的に報復に走ろうとします。
 しかし千束は「いいから」と何事もなかったように制止しました。相手に報復しても起こってしまった事は変えられず、壊された人工心臓は元には戻らないからです。
 そもそも千束自身、限りある命として、時間を大切にしています。いつも通りに喫茶リコリコに立ち、いつも通りの日常に帰っていきました。

 千束宛に一本の電話が入ります。DA楠木の呼び出しでした。
ミズキの運転で向かう道中でも「あんたはいつも通りねぇ」と雑談中に煽り運転に遭遇しましたが、千束が無言で銃を発砲し追い払いました。一切表情が描写されずとも、内心は穏やかではなかったようです。ただ寿命の期限より、たきなに余計な心配をさせてしまった自分に苛立っているようでした。

 楠木からも「じき死ぬにしては元気そうだな」という皮肉に対して「耳が早いですね」と動じず、「DAに戻れ」と言われたら「もう死ぬんで体調が」とわざとらしく咳き込む辺りや「ここに来るのは最後だと思いますし、もっと楽しい話しましょうよ」と軽口を叩いたり、飄々としていました。
 そんな千束に楠木が呼び出した理由、一眼レフカメラを渡します。一目見て千束の表情が変わりました。それは千束が探していたというカメラでした。楠木いわく、情報漏洩阻止の為に回収していたとのこと。おそらくミカが回収していて、DAが保管していたのでしょう。これは楠木も千束を呼び出す手段だったと思っています。残りの寿命を知ってなお、真島討伐作戦に参加するよう迫る材料として、カメラを出してきたのではないかと。

「多くの者がお前を優秀なリコリスにするために尽力したというのに、ろくに役割を果たさず死ぬんだな」と厳しい言葉を添える楠木には、優しさを垣間見たような気がします。
 吉松はリコリスとして【役割】を果たしていたなら、このような破壊工作はしなかったはずです。そんな千束に今からでも役割を果たせと訴えるようでした。しかし千束の意見は変わりません。「私の思う役割は楠木さんとは違うよ」とカメラを持って席を立ちます。「話は終わっていない」と引き留めますが、「たきなをDAに戻してあげて。そしたら考えなくもない」と出ていきました。
 終始無表情の楠木でしたが、この後すぐたきなに復帰の辞令を出すよう動いているので、千束を真島討伐作戦に参加させる為に司令としての役割、そしてこのまま千束を死なせない為にリコリスの役割を果たさせる両方を考えていたのだと思いました。

「ありがとうは私の方! どうお礼すればいい?」
「ありがとう。私もなる──救世主!」

 並外れた動体視力により、幼くして弾丸を避けられる程の実力をつけた千束でしたが、先天性心疾患により才能が途絶えてしまう事を吉松が阻止しました。
「君には大きな使命がある。それを果たしてくれ。その為に私は、さしずめ救世主になったんだ」
 そう語った吉松に千束が言った言葉です。リコリスとして殺しの技術を教えられ、その技術を買われて使命を託されたわけですが、お互いの思い描く救世主の姿は違っていたようです。
 術後、吉松は千束に銃を贈りました。リコリスとして悪人を殺し、千束が救世主となることを望んだ吉松の願いだったのでしょう。しかし「人を助ける銃だね」と悪人相手でも誰であっても、殺さずに救世主になることを選んだ千束。
 皮肉なことに悪人の命を奪う役割を与えられた千束は、命を救われたことにより違う価値観を得たわけです。

「人生、計画通りにはいかないもんだよ」
「トラブルを楽しむのが千束流だよ」
「楽しいよ、たきなといればさ」

 この考えはとても千束らしさにあふれています。
 自分の人生なのに自分の思い通りにいかないことはたくさんあると思います。入念に準備して自分なりに最善を尽くして、いざやってみるとうまくいかないことや、どうしたら良いか判らず、立ち止まってしまうこともあるでしょう。
 自分もそうです。特に仕事ではトラブルの連続、日々段取りと人の調整で急場を凌いでいます。トラブルなんて無い方が良いかもしれませんが、うまく乗り切ることができた時の達成感は平時には味わえないものがありました。なので不思議と覚えているのは大変だった仕事ばかりです。
 仕事にしろ遊びにしろ、計画通りに行かないとつい苛立ったり悲しくなったり、気持ちがネガティブになりがちな人が多いかもしれません。だからこそ、トラブルを楽しめる程
の気持ちの余裕を持てたら、起きた出来事の捉え方も変わるのではないでしょうか。
 千束はこうも言っていました。

「自分でどうにもならないことで悩んでもしょうがない。受け入れて、全力。それでたいてい良いことが起きるんだ」

 時間厳守のたきな考案した夜九時から雪を千束と見るという計画は、待っても待っても寒いだけで雪は降ってくれませんでした。たきなから「理不尽なことばかりです。そうは思いませんか?」と問われて千束が答えた言葉です。
 気まぐれな神様に振り回され、理不尽なことはいつも突然やってきます。どうして自分が、何でこんなことに、と塞ぎ込んで身動きが取れなくなってしまうことがあると思います。そうなったら一歩踏み出すことが億劫になってしまうかもしれません。
 でもまずは理不尽を受け入れて、何でもいいから動き出すと現状から変化が生まれます。何もしなければ、何も変わらないままです。もちろん何もしないことが選択肢になることもありますが、千束は何もせずに残りの寿命を受け入れて長生きを求めているわけではなく、生きていられる時間で自分のやれること、やりたいと思えることを全力でやってきた中で、結果的に良いことが起きたと話していました。
 孤児が集められたリコリスの一人だった千束が技術と才能を認められ、先天性心疾患だったのをアラン機関の吉松により救われ、ミカと喫茶店を始め、街の人と交流を深め、今はたきなに出会えたわけです。
 自分の中に受けれ入れた上で理不尽をどう向き合うか、理不尽を前向きに捉え、過ぎてみれば良いことが起きていたと思える生き方がしたいですね。

 余談ですが、この九話の最後に千束とたきなが別れて別々の道を歩き出すシーンが好きです。
 DAに戻ることにしたたきなとリコリコに残る千束。もしかしたらもう会うことができないかもしれない二人でしたが多くを語らずにマフラーを受け取ったたきなが「ありがとう。行ってきます」と別れました。
 そんな二人が空から降る雪に気がつき、振り返り離れた場所で見つめ合います。気まぐれな神様も理不尽なことばかりするわけではなかったようです。理不尽は受け入れて全力、実践していこうと思いました。

 

十話より
「この千束はどう? 好き?」

 千束の寿命が残り二ヶ月と宣告され、成人式には少し早い晴れ着をミカは千束に贈りました。
 木箱に埃が被る程、お店の地下倉庫でその時を待っていたようでミカが昔から内緒で用意していたようです。
 元々アラン機関の人工心臓には耐用年数に問題があり、ミカも「リコリスの現役はせいぜい十八だ」と成人するまで千束が生きられない事を承知の上でした。しかし千束と喫茶リコリコを初めて共に過ごす中で【親子】になっていたのでしょう。血のつながりはなくとも、名前を贈り、技術を伝え、居場所を作り、娘の成長を見守ってきたミカにとって子供が大人の仲間入りする節目を心待ちしていたのでしょう。
 同時に千束が【救世主さん】に対する憧れや命の残り時間を意識する中で葛藤もありました。不殺を否定し、リコリスとして殺しの仕事を受け入れれば、いつかまたアラン機関の吉松が助けてくれるかもしれないと伝えるべきか、彼女の理想【人を助ける銃で殺しはしない】を尊重するべきか。
 ミカの選択は千束の尊重でした。正しい正しくないではなく、不殺の否定することで千束の生きる気持ちが変化してしまい、できなかった事もあったのかもしれません。しかし千束の想いはミカの不安とは違っていました。

「ありがとう先生。私に決めさせてくれて、ありがとう。それ聞いてたらたぶん私は負けてた。そんで仕方なくリコリスの仕事してたと思う。で、イヤな事とかツラい事は全部先生やヨシさんのせいにするんだ。それは嫌だわ。うん、ないない」
「私の仕事も、このお店を始めたのも全部私が決めたこと、それをさせてくれた先生とヨシさんへの感謝は、今の話を聞いても全然変わんない。二人とも、私のお父さんだよ。それが一番嬉しいって感じする」

 与えられた使命や役割を全うする事もできたはずでした。でも千束にとって、貰った命をどう使うか、どう生きるか決めるのは自分自身が決めて行動してきたことでした。
 敵であれ殺さないということを否定され、リコリスとして役割を仕方ないと受け入れていたら負けていたというのは、自分でも思うことがあります。嫌な仕事でも自分を納得させるために、誰かに言われたから、時代が悪いから、やらないと生活していけないからと他人を理由に【やらされている】と感じるとしんどさが残り続けてしまいます。
 どんなにしんどい状況でも選んだのは最後に決めたのは自分で、続ける選択も自分、辞める選択肢を取らないのも自分なのです。そうは言っても自分には選べる余裕も権利も無いという方がもしいたら、視野が狭くなっているかもしれません。あなたの生き方はあなたが決めるものです。

 また十話の好きなシーンとして「この千束は好き?」と尋ねられた時の「ああ、自慢の娘だ」微笑み涙するミカの表情はとても穏やかで肩の荷が降りたようでした。
 子供が大人になることは親にとって嬉しいことですが、親からしたら子供はずっと子供でも、思っている以上に子供はいつの間にか成長し、守られるだけではなく、周りが考えている以上に自分の考えを持って歩いて行けるようになるのでしょう。
 

十一話より
「大丈夫。店戻って、お茶飲んでて」

 残り時間はあまりないはずでも真島に捕まったヨシさんを助けるために千束は旧電波塔へ向かいます。
 ミカと共に電波塔に到着はしましたが、この時の千束はミカに店に戻るように促していました。
 「私は大丈夫だから」と言わんばかりに「お茶飲んでて」と呑気に言っていますが、旧電波塔の上部は倒壊して足が悪く杖を使っているミカには荷が重いと考えたのかもしれません。
 実際、上部へ向かうには階段や折れた柱の上を飛んだり跳ねたりの身のこなしをする千束が真島の部下達との戦闘を繰り広げていましたので、彼女なりの気遣いだったと思っています。
 あとはこの千束からミカへの「行って来ます」と告げるシーンが九話の最後にたきなから千束へ「行ってきます」と重なっていて好きです。

 

Amazon Prime 【リコリス・リコイル】

引用元
🄫Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11
【リコリス・リコイル】
アニメ公式サイト
https://lycoris-recoil.com/

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